【中医学解説】嗜睡
概要
嗜眠(嗜睡)は、日中の抑えがたい眠気や反復する入睡を主徴とし、中医学では「多寐」「欲寐」「多眠」「多臥」などの範疇で論じられてきた。古典では睡眠・覚醒を陰陽および営衛の運行で説明し、衛気の出入失調が多臥(嗜眠)を招くと述べられている。また、それ以外には陽気衰微に伴う欲寐の臨床像が示されている。これらは、嗜眠の本態に「陽の不足」と「清陽の不昇」を据える中医的理解の根拠となっている。
現代中医学では、嗜眠の基本病機を主として「陽気不足・痰湿困阻・清竅失養」にまとめ、病位は脳(髄海)にあり、脾・腎と密接に関連しているとされている。脾虚により昇清が不足すれば清陽不昇となり髄海を養えず、運化が失調すれば水湿が内停して痰を生じ、痰湿が清竅を蒙閉して清陽が頭目に届かず嗜睡を生む。久病では腎精・腎陽が虚し髄海が空虚となって神明が失養する。外傷などで血行が阻まれれば瘀血が清竅を妨げ、痰瘀互結でも神明が擾乱される。病性は虚実相兼がほとんどで「本虚標実」を特徴とする。
以上をふまえると、嗜眠の病理は(1)脾・腎の虚(主として陽気の不足)による覚醒力の低下と、(2)痰湿・瘀血などの実邪による清竅の蒙閉の二軸から成立し、臨床では両者の挟雑が多い。
弁証類型
痰湿内阻(痰湿困脾)
頭重・昏昏欲睡・四肢沈重を主徴とし、胸脘痞満・悪心・納少をしばしば伴う。舌は淡胖で苔膩、脈は濡または滑。脾の運化低下で水湿が停滞し痰化、痰湿が清竅を蒙閉して清陽が上達しない病機である。食後増悪や湿環境での増悪が指標となる。
瘀血阻滞
病程が長く、頭痛・頭暈を呈し、外傷既往を伴うことがある。舌質紫暗または瘀点・瘀斑、脈は渋。頭部の血脈が阻滞して清竅の栄養が阻まれ、覚醒が維持できない。
脾気虚弱
倦怠乏力を主徴とし、飯後増悪、納少・軟便・面色萎黄を伴う。舌質淡・苔薄白、脈は虚弱。清陽の昇挙不足が本態であり、痰湿の二次的形成を易発させる。臨床では湿象が顕在化すれば「脾虚夾湿」として扱う。
陽気虚衰(しばしば腎陽虚を併せる)
心神昏蒙・倦怠嗜臥・精神疲乏・畏寒肢冷などを呈し、舌淡・苔薄、脈沈細無力。腎陽虚を併せると腰膝痠軟・夜間頻尿などが加わる。陽の温煦・鼓舞が乏しく、脳の覚醒維持が困難となる型である。
腎精不足(髄海不充)
怠惰嗜寐・頭目昏沈・思維遅鈍を主徴とし、耳鳴・健忘・腰膝酸軟・夜間多尿を伴いやすい。舌質淡、脈沈細弱。腎精の虚損により「髄海空虚」となって脳神が失養し、睡眠—覚醒の転換が鈍磨する。
肝胆鬱熱
主症は頭重・昏昏嗜睡・胸脇脹満・口苦・煩躁などであり、尿黄や便秘を伴うことが多い。舌は紅、苔は黄膩、脈は弦数を呈する。肝胆の鬱熱が胸膈の痰滞を助長し、清陽の不昇を招くことで嗜眠を発する。治法は清熱利胆・化痰醒脳を主とする。慢性化すれば脾腎の虚を併せることが多く、実証一辺倒ではなく虚実挟雑として弁証する必要がある。
肝胆鬱熱による嗜眠は脾虚・腎虚・痰湿・瘀血などと比べて頻度は高くないが、痰熱の阻滞が主体となる実証型として位置づけられる。
