【中医学解説】大便と弁証論治

大便とは、人間が摂取した水穀が脾胃の腐熟・運化、肝の疎泄、命門の温煦を経て、精微物質が吸収された後の残渣部分である。 それは大腸を経由して肛門(魄門)から排出される。 健康な人は毎日あるいは隔日に一度排便し、形は軟らかくまとまっており、乾燥しておらず、膿血や粘液、未消化の食物は含まれない。 一定の臭気があり、色は淡黄色である。 もし糞便の色、質、量、臭いに異常な変化が生じれば、それは一種の病理現象であり、単独で一疾患となることもあれば、他の疾患の過程で見られることもある。 臨床ではその色、質、量、臭いの変化に基づいて、病の性質、邪気の盛衰、臓腑の虚実、および病の予後と転機を知ることができる。

目次

1.大便と臓腑との関係

小腸・大腸と大便

小腸は胃で腐熟された水穀の残渣を受け入れ、泌別清濁を行い、清は上り、濁は大腸へ闌門を通じて下行する。 大腸はさらにその中の余分な水分を再吸収し、食物の残渣を魄門から排出し大便とする。
もし病邪が侵入したり、大小腸の機能が失調すると、腸の伝導に影響して泄瀉や便秘などの異常が生じる。 邪気が腸道に結集し、気血を損傷すれば、膿血便が現れる。 熱が大腸の津液を焼くと大便乾燥、便秘、不通などが起こる。

脾胃と大便

飲食の消化吸収は脾胃の腐熟と運化に依存している。 もし脾胃の虚弱、あるいは長期の飲食失調、労倦、七情不和による内傷があれば、脾胃を損傷し、昇降の機能が失われ、清気が上がらず、濁気が下がらなくなり、軟便になり、さらには未消化の食物が混じることもある。
病邪が脾胃を損傷し、気や血、あるいは陰陽を傷つければ、赤白の膿血便が現れる。
脾の運化が衰え、津液の生成が不足したり、脾気・脾陽が虚して大腸の伝導が無力になれば、便が滞りやすくなる。
また、中気の下陥は、昇陽不利による大便失禁を引き起こす可能性がある。

肝と大便

運化、伝導、排泄は、すべて肝の疎泄を必要とする。 肝気の不疏は脾胃を侵し(肝気横逆)、運化失調から泄瀉となる。
肝気の鬱滞によって気機の昇降が失調し、大腸の伝導が乱れ、糟粕が大腸に停滞して、大便の乾燥・結実を形成する。

腎と大便

命門火は脾胃を温め、運化、伝導を助ける。 年老いて体が弱ったり、あるいは長患いにより腎陽が衰えると、命門の火が不足する。 すると脾土を温めることができず、運化が失調して五更瀉や、あるいは長引く下痢を引き起こす。
もし腎陽が極端に不足して、気が巡らず、津液が流通しなければ、大便の乾燥・結実を招くこともある。
腎気が不足し固摂ができないと、大便失禁や、ひどい場合は脱肛が起こる。 腎陰が損傷し、津液が不足すれば、腸道が潤わず、大便の乾燥・結実が生じる。

2.大便と六淫、七情、飲食との関係

糞便の性状は六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)や七情、飲食の失調によって変化し、便秘や下痢などの排便異常として現れる。

六淫はいずれも便秘・下痢を起こし得るが、とくに湿・寒・暑によるものが多い。
清稀便(軟便・下痢)は湿邪の関与が目立ち、湿を最も嫌う脾が湿邪に阻まれると運化が失調し、水穀が分別されずに混ざり合ったまま下行して下痢となるため、「湿多ければ五泄を成す」とも言われる。
膿血便も六淫のいずれからも起こり得るが、中心となるのは湿熱や疫毒(感染症)であり、次いで寒湿や燥の邪気がこれに関わる。
干結便(便秘)では、風・熱・燥が大便の乾燥を招きやすく、燥熱は陽邪として津液を損傷しやすいことから、便の干結を形成しやすい。

さらに、七情が不安定になることも排便の失調を誘発し、便秘や下痢として現れる。

飲食面では、食べ過ぎや脂っこいものの摂り過ぎ、生もの・冷たいもの・不潔なものの摂取が脾胃を損傷して運化を乱し、泄瀉を起こしやすい。
加えて、甘いもの・酒・脂っこいものの過食や不潔なものの摂取は湿熱を蓄積させ、膿血便の原因となる。
また、酒の飲み過ぎ、辛いものの過食、あるいは誤って熱毒のある薬を服用することは腸胃に熱をこもらせ、津液を消耗して乾燥便を生じ、便秘へと至る。

3.弁証の要点

色の弁別

正常時は黄色または茶褐色であるが、飲食と大きな関係があり、野菜を多く食べれば暗緑色を呈し、肉類を多く食べれば褐色を呈する。

  • 大便が淡黄色: 虚熱である。
  • 大便が深黄色: 実熱である。
  • 大便の色が黒: 蓄血であり、遠血(上部消化管からの出血)である。
  • 大便の色が白: 大腸虚寒である。
  • 大便の色が緑: 肝鬱乗脾である。
  • 小児の緑便: 食滞である。
  • 大便の色が赤: 赤痢である。
  • 大便の色が鮮紅: 便血であり、近血(肛門に近い部位からの出血)である。
  • 大便が赤白色: 湿熱痢である。
  • 大便の色が青(青紫): 風が臍から入って腸胃に及んだものである。

便の性状

正常な大便は質が軟らかく、円柱状(有形)であり水中で容易に分解しない。

  • 大便が非常に稀薄、あるいは水のようなもの: 多くは湿邪が勝っている。
  • 純粋な水で糞便を含まないもの: 熱結旁流である。
  • 大便が粘り気が強く濃厚なもの: 熱盛による津液の損傷である。
  • 水と糞が混ざり、鴨の糞のようであるもの: 虚寒である。
  • 大便が乾燥して結ぼれているもの: 津液の不足である。羊の糞のようであれば、多くは噎膈(飲み込み困難)の末期に見られる。
  • 大便に未消化の食物が混じっているもの: 中陽(脾胃の陽気)の不足である。
  • 大便に赤白の粘液が混じるもの(ゼリー状): 痢疾である。
  • 小児の蛋花様便(かきたま状): 消化不良である。
  • 大便の中に泡が多く混じるもの: 風邪が腸に入ったか、あるいは水飲が腸に留まっている。
  • 大便の中に虫が混じるもの: 「長虫」は回虫であり、「寸白虫」は条虫である。

便の量

健康な人が一昼夜(24時間)に排出する大便の量には大きな変動があり、主に摂取した食物の量と成分によって決定する。植物性食品を摂取した時は大便の量が多くなり、肉類を摂取した時は少なくなる傾向にある。
一日の平均量は200グラム程度で、食物が腸内を通過するのが速い場合や、水穀の精微の吸収能力が低下している場合、あるいは大便急迫がある時は糞便量が増加し、長期の便秘では糞便量は少なくなる。

病理的には、量が多いものは一般に実証や初病(急性期)の場合に、量が少ないものは多くは虚証や久病(慢性期)によく見られる。数日にわたって排便がないのは、津液が枯渇しているか、あるいは裏に熱が結ぼれているためである。

便の臭い

野菜を多く摂取した糞便は臭いが軽く、タンパク質を多く摂取した糞便は臭いが強くなる傾向にある。特殊な腐敗臭がする場合は大腸癌の可能性がある。

  • 大便が酸臭を放ち、腐った卵のようであるもの: 食積である。
  • 大便が生臭い(腥臭)もの: 寒である。
  • 悪臭がひどいもの: 腸の中に熱が積もっている。
  • 臭いが無い、あるいは極めて軽微なもの: 多くは虚、あるいは寒である。

排便するタイミング

  • 大便が夜明け前に漏れ出るもの: 「五更泄」に属し、多くは脾腎陽虚である。
  • 食後すぐに排便したくなるもの: 「禄食瀉」に属し、脾虚(ひきょ)である。
  • たびたび便意を催すが、出がスムーズでなくスッキリしないもの: 気機の停滞による。
  • 腹痛とともに即座に下痢するもの: 多くは傷食あるいは肝気犯脾に属する。
  • 時を選ばず便が漏れ出し、自制できないもの: 「滑瀉」に属し、多くは脾腎の陽虚による肛門失約に起因する。
  • 喘息や激しい咳に伴って便が出てしまうもの: 腎の摂納の失調である。
  • 驚愕や恐怖によって便が出てしまうもの: 七情不和による損傷である。多くは驚恐傷腎による腎気不固による。

4.各論

水様性下痢(稀水便)

稀水便とは、大便が水のように清稀しているものを指し、ひどい場合には便のカスが混ざらず純粋な水だけが下痢として排出される。回数が多く、量も多く、下痢の勢いが急激であったり、あるいは悪臭を伴ったり、腹痛を伴ったりする。

  • 寒湿困脾:大便が水様に稀薄で色は淡く、臭いはそれほど強くない。腹部が冷えて痛み、腸鳴を伴い、生冷物の摂取や雨天や湿度の高い環境下で誘発・増悪しやすく、温めると緩解するのが特徴である。外感風寒によるもの、あるいは寒邪直中したもの、あるいは生冷物の食べ過ぎによる脾陽損傷などが原因となる。
  • 湿熱:大便は回数が多く急迫しており、粘稠で臭気が強いのが特徴である。色調は黄色~黄褐色で、水様というより泥状・泥水状の下痢になる。残便感や肛門部の灼熱感・疼痛を伴うことも多く、場合によっては少量の粘液を帯びる。腹痛は下痢によりやや軽減しますが完全には止まりにくい。酒や肥甘厚味の過剰摂取、熱邪による津液煎熬などが原因となる。
  • 暑湿入侵:夏の暑い時期に、黄色く臭い稀水が下痢として排出される。下痢の勢いは急速で、肛門が焼けるように痛み、発熱、頭の重だるさ、煩渇、自汗、尿が短赤であることを伴う。これは外感暑湿の気によるものであり、暑湿が入り込み、表裏ともに病んでいる状態である。
  • 熱結旁流:稀水で非常に臭く、時に乾燥した固い便の塊が混ざることがある。排便はスムーズではなく、多くの場合、先に便秘があってからその後に下痢が続く。へその周りが痛み、腹部が張って痛み、押されるのを嫌がる(拒按)。陽明の乾燥した便が内に結集して腑気が通じなくなることで便秘となり、その後実熱が津液を無理やり下に流し出すため、自ずから清水が漏れ出す。また別の形として、腸内に乾燥した便の結集はないものの、少陰病の邪が熱化して腑気が壅滞することで生じる稀水便も、熱結旁流型に属する。
  • 水飲留腸:下痢が清水、あるいは大便が泡状を呈し、臭いはない。腸鳴がゴロゴロと鳴り、清水を吐き、腹部が張って尿が少ない。水分の摂りすぎにより脾胃を損傷し、水穀が消化されず、かえって飲となって留まり、腸の中に滞留したことが原因となって生じる。
  • 温疫毒火:温疫の毒火が大腸に流れ下ったことによって引き起こされる。下痢が清水のようであり、発症が急で進行が速い。

粘稠便

  • 湿熱阻滞:湿熱によって生じる粘稠便は黄色く濁って粥のようであり、粘りついてスムーズに出ず、臭いが強い。排便時に肛門に灼熱感があり、頻回に便意が訪れる。便量はやや多く、腹痛があって押されるのを嫌がる(拒按)。
  • 食滞胃腸:大便は粘り気が強く、腹痛が起きるとすぐ下痢をし、下痢をすると痛みは軽減するが、しばらくするとまた腹痛と下痢を繰り返し、食積湿滞により気鬱化火すると便は非常に臭くなる。胸や胃のあたりが張って塞がったような不快感があり、酸っぱいげっぷが出たり、腹が張って食べ物を嫌ったりする。
  • 肝気犯脾:肝気犯脾により湿盛となることで大便は粘りついてスムーズに出なくなり、排便後も残便感がある。情緒的要因と関係しており、怒りや感情の高ぶりによって腹痛と下痢が誘発されやすい。排便すると腹痛は和らぐ。
  • 痰飲内停:粘稠便に白い卵白のようなものが混じる。未消化の食べ物は混じらず胃や腹部の不快感、ゴロゴロという腸鳴を伴う。痰飲が胃を攻めると和降が失調し吐き気を催す。

鶩溏便

鶩溏便(ぼくとうべん)とは、固形便と薄い水が混じり合い、色がアヒルの糞のように青黒いものを指す。

  • 寒邪直中:下痢が突発し、水糞が混ざり、臭気はそれほど強くない。腸鳴、腹痛があり、痛む部位を押さえるのを嫌がる(拒按)。常に口の中が淡白で喉の渇きはなく、悪寒、肢体の冷えを伴う。寒邪が直中すると、脾胃の昇降機能が失調し、清濁が化されず大腸へ走るため、水糞が混ざる。寒は陰邪であり、凝集させる性質を持つため、陽気による腐熟が及ばないため糞便の臭気は強くない。
  • 寒湿困脾:下痢の水糞が混ざり、水分が多く、時に未消化の食物が混じる。糞便は生臭い。常に納呆、脘腹の痞えや重苦しさ、頭の重さ、身体の倦怠感などを伴う。口は淡く喉は渇かず、腸鳴、腹痛がある。寒湿によって脾の運化が阻まれ、昇降機能が失調して清濁が分かれなくなる。飲食が十分に消化されず大腸へ走るため、腹痛や水糞の混在、時に未消化の食物が見られる。食欲不振、脘腹部の痞えは寒湿が中焦を塞いでいる象である。頭重や身重は寒湿が表を困しめていることによるものである。
  • 飲食停積:腹痛が起きるとすぐに下痢をし、下痢をすると痛みは減るが、しばらくするとまた痛み、下痢をする。水糞が混ざって下り、臭気は非常に強く、胸や脘腹部の膨満感、痞え、不快感を伴う。噯腐呑酸、腹部膨満、食欲不振がある。宿食が中焦に停滞して、腹痛・下痢となり、水糞が混ざる。宿食が消化されず濁気が上逆すれば、噯腐呑酸となる。食積が停積し化熱して腐敗するため、下痢の臭気は強烈になる。濁気が下へ排泄されることで、下痢の後に痛みは減る。
  • 脾気虚弱:下痢の水糞が混ざった状態が間欠的に発生し、病が長引き、反復して治らない。糞便中には常に未消化の食物が混じり、顔色が白く、自汗、肢体の倦怠感、無力感、食欲減退を伴う。食後に脘腹が膨らんで不快になる。

完穀不化便

完穀不化便とは、大便の中に未消化物が比較的多く含まれている状態を指す。あるいは卵のスープや豆腐のカスのようであったり、糞便の中に水と穀物が混ざり合い、便質が希薄なものをいう。希水便、粘稠便、鶩溏便、五更便においても同様の状態の物が現れる場合がある。

  • 脾胃虚弱:飲食の不摂生があると、排便回数が顕著に増加する。排便時は軟便や下痢を呈し、未消化物が混じる。食べ終えるとすぐに腹鳴があり急激に便意を催しやすく、出し切ると腹部がすっきりする。あるいは隠痛(※しくしくした痛み)を伴い、食欲不振があり、食後は腹部が膨満しやすい。脾気が上昇できず、水穀が消化されず、清陽が下降しやすくなるため、わずかな飲食の不摂生でも排便回数が顕著に増加し、かつ未消化物が混じる。
  • 脾腎両虚:多くは夜明け前に臍の下が痛み、続いて腹鳴が生じて下痢をする。完谷不化を呈し、排便後は少し落ち着く。いわゆる五更便・五更泄瀉のことである。
  • 風犯胃腸:日常生活の不摂生により、外から風邪を受け、それが内で胃に干渉すると、脾気が上昇せず水穀の運化が及ばずに下痢となる。そのため、大便に完穀不化が見られる。風邪が表を襲うため、悪風・発熱、鼻閉などを伴う。多くは長夏および冬に見られる。

五更便

五更便とは、早朝(五更:午前3時〜5時頃)に排出される軟便・水様便のことを指し、一定の時間に生じる病理現象の一種である。その特徴として、毎朝必ず一度、あるいは数回排便し、便の状態は泥状ないし水様で、腹痛を伴うこともある。
五更便は歴代の医書の中で「五更泄」「晨泄」「腎泄」「鶏鳴泄」などとも称されてきた。高齢で体が弱い者や、長引く下痢を患っている者に多く見られるが、情志の抑鬱や飲酒の不摂生がある者にも見られる。明らかな季節性はなく、四季を通じて発症し、一般に病程は長い。

  • 脾腎陽虚:夜明け時に腹痛・腹鳴が起こり、大便は泥状・水様となる。臍周りの冷え、腰膝酸軟、畏寒、手足の冷えなどを伴う。加齢・久病・過労・房事過多などによって腎を傷めることで命門の火が衰微し、脾陽を支えることができなくなることに起因する。夜明け時に陽気が振るわず、陰寒が盛んになると共に、脾陽が温煦を失って運化失常し、水液が偏って大腸に流れ込む。そのため夜明け時に腹痛・腹鳴、泥状便が見られる。陽虚により温煦が失われ陰寒が凝集するため、臍周りの冷痛や手足の冷えが生じる。腰は腎の府であり、その腎が虚しているために腰膝酸軟が見られる。
  • 脾陽虚:生冷の食べ過ぎや陽気不足を起因とした寒湿内生により、脾陽が困阻され運化が停滞することによって生じる。
  • 肝鬱乗脾:五更の時に腸鳴がして痛み、急いでトイレに駆け込むが、便は泥状で排便がすっきりしない。あるいはトイレに行ってもガスが出るだけのこともある。情志の変動によって症状が悪化する。多くは情志が和らがないことで肝の条達が失われ、疎泄機能が低下することに起因する。寅・卯の刻(五更)は肝気が最も盛んになる時間帯であるために明け方に生じる。
  • 湿熱阻滞:夜明け前に腹痛と腸鳴が起こり下痢をする。便は黄色く泥状で臭気が強く、排便後はすっきりせず肛門に灼熱感がある。夜明けに至り陽気が次第に生じると湿熱がさらに盛んになることで湿熱困脾を引き起こす。運化失常によって清濁が分けられず水穀が合わさって大腸へ赴くため、五更の下痢が見られる。湿熱が腸胃の気機を阻滞させるため腹痛と腸鳴、黄色の泥状便、排便後の不快感を生じる。湿熱が下注するため、肛門の灼熱感や尿の赤濁が見られる。

経行稀便

経行稀便とはいわゆる経行時の泄瀉便のことである。毎回の月経周期において、大便が軟らかく薄くなり、一日に2〜3回、あるいは泥状便や水様便となり、ひどい場合には完穀不化便を呈し、月経が終われば治癒する。

  • 脾腎虚弱:もともと脾気が虚しているところに、経行時に気血が衝任の脈へ注がれることで脾気が不足することで経行稀便となる。月経先期、月経過少、経血清稀、経色淡紅などを伴う。
  • 肝鬱乗脾:経前より泄瀉があり、痛むとすぐに排便したくなり、排便後は痛みが軽減する。肝気が横逆して脾土を克伐するため、痛むとすぐに排便したくなり、排便後に痛みが軽減するのである。情緒刺激によって誘発されやすい特徴を備えている。

失禁便

失禁便とは、排便を自制できず、滑脱して止まらないものを指す。古医籍の中では「大便失禁」「滑泄」「大便滑脱」などと名付けられている。
失禁便は排便感の異常を主とする病変であり、泄瀉や痢疾とは関連があるものの区別される。高齢で病が長引いた者や昏睡患者に多く見られ、その他細菌感染によって生じた制御不能なもの、慢性結腸炎、腸道腫瘍などの患者に見られる。この他、昏睡患者においては亡陰亡陽の脱証で大便失禁が生じる。

  • 熱毒熾盛:疫毒痢の患者に見られる。発病は急峻で、鮮紫色の膿血、あるいは血水のような便を下す。高熱、煩躁、口渇を伴い、甚だしい場合は痙攣や神昏をきたし、大便は自遺する。疫痢の邪はその性が暴戻であり、正気を傷つけるのが極めて速い。湿熱の疫毒が腸道に蘊結し、正気が内に潰え、正が邪に勝てなくなると、熱毒が内に陥って心営を乱し、竅を閉ざして神昏を招き、大便が自遺する。疫毒の邪が気血と搏結することで、鮮紫色の膿血便や血水様の便が見られる。
  • 脾腎陽虚:腎気不固により肛門の制約が失われ、時折粘液便が流れ出る。形寒、怯冷、四肢の厥冷、食少、腹脹、腰膝の酸軟、耳鳴り、小便清長を伴う。
  • 気虚下陥:大便の流出に自覚が乏しく、時に脱肛して収まらない。羸痩、精神萎縮、食欲不振、食後の脘悶、心悸、息切れ、少気懶言、語声低微、面色晄白を伴う。
  • 肺腎気虚:喘咳すると二便が自遺して制御できないものは、久咳による肺の損傷が日久に及び腎に至り、腎気が虧虚して固摂を失ったことによるものである。

急性膿血便

膿血便とは、便の中に膿と血が混じって排出されるものを指す。あるいは白あるいは薄暗い桃色の粘液や固形物が混じっていることもある。また、腹痛、便回数の増加、裏急後重などの症状を伴うのが通例である。本病は「血痢」「膿血痢」「熱痢」などの範疇に属し、痢疾の主要症候の一つである。
急性膿血便の臨床的変化は多岐にわたり、赤が多く白が少ないもの、白が多く赤が少ないもの、純粋な血水のような赤色のもの、純粋な白膿のような白色のもの、あるいは五色が混ざり合ったものなどがある。病因においては、外感によるもの、内傷によるもの、飲食や労倦によるもの、疫病の毒気によるものがある。急性膿血便は夏秋の季節に多く発生し、現代医学における細菌性赤痢、急性アメーバ赤痢、中毒性赤痢などの疾患に見られる。

  • 湿熱夾表:発症が急激で、先に水様の瀉下があり、その後に赤白が混じった便となり、便は粘り気が強く粘液状である。腹痛、裏急後重があり、悪寒・発熱、頭痛、身体の痛み、口渇と頻飲を伴う。外感の時邪を受け、さらに内側に飲食の不摂生があることで生じやすい。天の暑気が下り、地の湿気が立ち上り、人がその気交の中に在る時、暑さで冷たいものを摂りすぎることで胃腸の湿熱が内に籠もる。腸の伝導機能が失調し、通りが悪くなることで気血が滞り、腸道の脂膜と血絡がともに損傷を受ける。ゆえに便に赤白が混じり、腹痛、裏急後重が見られる。悪寒・発熱、頭痛、身体の痛みがあるのは表証を兼ねているためである。
  • 毒熱下迫:発症が急で、便は赤白混じり、あるいは赤が多く白が少ない。あるいは純粋な赤色の粘液である。肛門の灼熱感、腹痛、顕著な裏急後重がある。発熱が重く、悪寒はない。熱感を嫌って冷感を好み、衣類を羽織りたがらない。口渇して水を飲みたがり、頭痛、心煩、焦燥感、尿短赤で排尿痛を伴う。暑湿熱毒の邪が腸胃に侵入し、内で結して蒸されることで、腸道の気血が阻滞して膿血に変化したものである。ゆえに腹痛、裏急後重、赤白混じりの便が見られる。毒熱が下へ迫り、腸道の血絡が損傷を受けるため、便中に膿血が多く、甚だしい場合は純粋な赤色の粘液となる。湿熱が下注して肛門に迫るため、肛門が灼熱して痛む。湿熱が小腸に波及すれば、尿短赤で排尿痛が見られる。熱を嫌い冷を好む、口渇して飲みたい、頭痛、心煩、焦燥などは、すべて熱邪が内に充満し、表に現れたものである。
  • 大腸湿熱:発症が急で、便に膿血が混じり、量は少なく、便下の粘液が多い。白が多く赤が少ない、あるいは純粋に白い粘液状である。滞って出にくい感覚があり、粘り気が強くスッキリせず、あるいは豆汁のようなものを下す。一日の回数は十数回に及ぶ。腹痛、裏急後重、矢気(放屁)が多い。胸苦しさ、口の中の粘り、食欲不振、軽度の発熱、腹部膨満、身体の重だるさがある。これは湿熱が大腸に蓄積し、腸の伝導機能が失調したものである。
  • 疫毒内閉:発症が極めて急激で、紫色の膿血、あるいは血水のような便を下し、臭気は強い。排便回数は頻繁で、壮熱、激しい口渇、激しい腹痛がある。甚だしい場合は神志がはっきりせず、痙攣を起こす。鼻翼がヒクヒクし呼吸が促迫する、唇が青紫になる、顔色が蒼白になるなどの「内閉外脱」の危急の状態が見られる。本型は多くが爆発的な流行の特性を持ち、その性質は暴戻で、人を傷つけるのが極めて速い。疫毒が内に潜伏すると、極めて火に変化しやすく、表裏内外に充満する。そのため、発病してすぐに壮熱・口渇、悪心・嘔吐が見られる。毒熱が心営へ陥入し、熱が極まって動風を引き起こすと、意識混濁や痙攣が見られる。
  • 暑入厥陰:血水あるいは赤白混じりの便を下す。裏急後重、発熱、口渇、甚だしい場合は四肢の痙攣、発疹が見られる。本証は暑熱の疫毒が三焦に充満し、厥陰へ陥入したものである。毒が大腸に移ることで血水や赤白混じりの便を下す。頻渇多汗、身体の発疹などは暑熱の症状である。
  • 邪毒犯胃:膿血を下し、赤が多く白が少ない。悪心・嘔吐、食事ができず、食べるとすぐに吐く。胸隔のつかえ、胃脘の閉塞感がある。本証は疫毒痢や湿熱痢の病程中に見られる。患者は高齢で体が弱い者に多い。正気が不足し、邪気が壅盛な正虚邪実の状態である。湿熱の疫毒が腸の中に鬱結して胃へ上攻したり、疫邪が胃に伝わり毒気が胃に留まったり、あるいは下痢に伴う表証に対して誤って攻下法を用いることで表邪が内に陥入したりすることで胃に邪気が及ぶ。これにより胃の和降の機能が失われるため、飲食を受け入れられず、食べるとすぐに吐いてしまう。この証は多くの場合危険である。

慢性膿血便

慢性膿血便とは、膿血便が持続する期間が比較的長いか、あるいは断続的に発作を繰り返し、長期間におよんでも治癒しないものを指す。あるいは、希薄な便の中に少量の膿血が混じる、便質が乾燥しており、排便の前後で少量の膿血が混じるといった症状を呈する。排便は一日に1〜2行である。
本疾患の多くは、急性膿血便に対する治療の誤りや、体質虚弱によって正気が虚し邪気が停滞することによって引き起こされる。本病は本虚標実であることが多い。

  • 大腸寒湿:下痢が長引き、白(膿)が多く赤(血)が少ない。便は清稀で生臭い。あるいは白い粘液を下し、あるいは豆汁のような便が出る。腹部膨満感や痛みがあり、重苦しい感じや小腹の冷えを伴う。裏急後重、腸鳴、四肢の冷え、身体の重だるさ、口の中が粘り飲食を欲しない、小便清白といった症状を伴う。本証の多くは、寒湿の邪が大腸を直接侵したり、湿熱による下痢の後に熱が去って湿が留まったり、湿が脾陽を困じて脾失健運となり食滞が内に生じたりすることによって起こる。寒湿と食滞が大腸に滞ることで伝導の機能が失われ、伝導通降が不利となり、気血が阻滞する。その結果、腸の脂膜と血絡がともに損傷を受け、赤白の便、裏急後重、腹中の膨満感や痛み、腸鳴が見られる。寒湿は陰邪であるため、白が多く赤が少ない。寒湿が脾を困じ脾陽が振るわないため、陽気が四肢の末端まで届かず、四肢の冷え、身体の重だるさ、口が粘り渇かない、小便清白といった症状が現れる。
  • 陰虚邪恋:膿血便が長期間治癒せず、赤く粘り気のある便を下す。赤(血)が多く白(膿)が少ない、あるいは粘り気があって出にくい。虚坐努責(便意があるがきばっても出ない)、昼は軽く夜に重い、心煩、口の乾き、夜間の不眠、午後の潮熱、体の倦怠感や無力感が見られる。これは膿血便が長引くことで、傷陰耗血したり、湿が停滞したり、辛燥や収斂の薬を誤用したり、元々の体質が陰虚であるところに湿熱を度々感受したりすることで、陰液が損傷し、湿熱が久しく留まって去らなくなることで起こる。腸の脂膜が損傷されるため、赤白の粘った便を下し、邪熱が留恋しているため赤が多く白が少なく、粘り気があって出にくい。陰虚により夜間に正気が邪気に勝てず、病状は昼に軽く夜に重いという傾向が生じる。
  • 脾虚失固:膿血便が時折発生し、日久におよんでも治癒しない。飲食の不摂生や冷えによって悪化しやすく、悪化時には排便回数が増え、便の中に膿血が混じる。腹痛があり、すっきり排便できない。また脾気下陥により脱肛や下垂感を伴う。普段の便は乾燥していたり希薄であったりし、少量の膿や粘液が混じる。倦怠感、少気、横になりたがるなどの症状を伴う。長引く下痢により脾が損傷し、脾不統血となるため便に膿血が混じる。
  • 肝気乗脾:便の中に膿血、あるいは赤白の粘液が混じる。腹痛、裏急後重があり、まず腹痛が起こってから下痢をし、その後に膿血を下す。肝気鬱結による胸のつかえ、両脇の痛みなどを伴う。肝木が横逆して脾土を克犯し、脾土が虚して運化できず、清陽が上昇せず脾気が内に陥って餐泄となり、それが長引いて腸澼となるために起こる。
  • 瘀血阻腸:大便の膿血が日久におよぶ。便の色は赤紫色で塊があったり、黒色の漆のような光沢を帯びていたりする。腹痛は耐えがたいほど激しいか、あるいは刺すような痛みである。裏急後重、下垂感が異常に強い。長期に及ぶ膿血便により気血が腸に凝滞したり、気滞気虚によって瘀滞したりすることで生じた瘀血が大腸を侵襲することで生じる。
  • 脾腎陽虚:大便が希薄で、少量の膿血あるいは白い粘液が混じる。頻繁にトイレへ行くが、特に天明時に激しい。下腹部の隠痛があり、温めることや押さえることを好む。これは膿血便が長引いて治らず、脾陽を損傷し、その損傷が腎にまで及んで脾腎陽虚となり、温煦や固摂ができなくなるために起こる。
  • 陰陽両虚:大便の膿血が日久におよんで止まらず、形体は消痩し、全く飲食を欲しない。無理に食べれば嘔悪がし、あるいは頻繁に嘔吐して食べることができない。老衰、誤治、久病、暴戻な毒邪などにより胃の気が甚だしく損傷され陰陽共に虧損している危候である。脾胃が衰敗し、気血を生み出す源が絶たれるため、日久におよんで形が痩せ精神が疲弊する。

乾結便

腸道内に長く滞留しすぎることにより、質が乾燥して硬くなった大便のことを言う。本証は臨床上、便秘との鑑別が必要である。便秘とは大便が秘結して通じず、排便間隔が延長する、あるいは排便したくても困難でスムーズにいかない病証を指す。便秘患者の糞便の質は、乾燥して硬い場合もあれば、そうでない場合もある。それに対し、乾結便の患者は排便困難を伴うものの、糞便の質は必ず乾燥して硬いのが特徴である。

  • 胃腸積熱:本型は多くが陽盛体質の人に見られる。あるいは飲酒過多、辛いものや脂っこいものの食べ過ぎ、あるいは誤って温熱薬を多用して胃腸に熱が積み重なり、熱が津液を傷つけることで発生する。または熱性疾患の後に余熱が残り津液が灼かれてあり、肺の燥熱が大腸へ移り腸道を乾燥させることで潤いを失ったりすることで大便が乾燥して硬くなる。熱邪が上を蒸すため口の乾き、口臭、いらいら、顔面紅潮が生じる。熱が腸胃に積もって気が通じないため、腹部が張って痛む。熱が膀胱に移ると小便が短赤となる。
  • 気機鬱滞:本型は、憂鬱や思慮過多、安逸過度、腹部外科手術後の腸管癒着、外傷による気滞血瘀、腸道の寄生虫、肺気不降などが原因となる。これらによって大腸の気機が滞り、輸送・排泄機能が失調して糟粕が内部に停滞することで、大便が乾燥して硬くなり排出が困難となる。気が腹部で滞るため、脇腹や腹部が膨らんで痛む。濁気が下降せずに上攻すると胃気が逆上し噯気が出る。
  • 陰血不足:本型は多くが病後、産後、および高齢で体が虚弱な人に見られ、気血津液が不足していることによって引き起こされる。陰血が不足し、腸道が乾燥するため大便が乾燥して硬くなる。
  • 燥熱傷津:本型は多くが、外燥の邪気を感受することで発症する。外感の燥邪が人体の津液を傷つけ、腸道が潤いを失うため、大便が乾燥して硬くなる。体表が潤いを失うため、皮膚が乾燥してひび割れる。燥邪が肺の津液を傷つけると、肺が潤いを失い無痰あるいは少痰の乾いた咳が出る。
  • 湿熱蘊結:大便は先が乾燥して硬く、あとが軟便(後溏)、あるいは粘り気があり不潔で濁っている。排出が困難で、便秘と下痢が交互に現れる。本型は多くが外感湿熱、あるいは脾虚により水湿を運化できず、湿が熱に化すことで生じる。湿と熱が合わさって胃腸に滞り、気機の流れを妨げ、昇降の機能が失調して伝導機能が阻害される。便は熱によって乾かされると共に湿邪によって粘稠性を帯びるため、先硬後軟となったり便秘と下痢が交互に現れたりする。腸が湿阻されるため下腹部の重苦しい張りを伴う。

主たる参考文献:人体排出物異常証診断治療学

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